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東京高等裁判所 昭和28年(う)3734号 判決 1954年3月06日

控訴人 被告人 品川光男こと上台修三

弁護人 位田亮次

検察官 小出文彦

主文

本件控訴を棄却する。

当審における未決勾留日数中六拾日を被告人の本刑に算入する。

理由

被告人本人及び弁護人位田亮次の各控訴趣意は別紙記載のとおりで、これに対し次のように判断する。

弁護人の控訴趣意について。

原審第一回公判調書に所論の事項についての記載がないことは所論のとおりであるが、現行刑事訴訟法第五十二条によれば、公判期日における訴訟手続で公判調書に記載されたものについては反証を挙げて争うことは許されないが、公判調書に記載のない事項は、当然存在しなかつたものということはできず、他の資料によつてその存否を証明することができるのである。そして本件においては、当審で当時の立会書記官補である草薙清を証人として尋問したところによると、原審第一回公判期日において証拠調が終つた後出席検察官は事実及び法律の適用について意見を陳述し、被告人を懲役三年に処するのを相当とすると述べ、これに対し弁護人から寛大な判決ありたい旨の弁論があり、最後に被告人から「迷惑をかけて申訳ない」という意味の陳述のあつたことが明らかであるから、原審の訴訟手続に所論のような違法があつたとはいえない。それゆえ論旨は理由がない。

(その他の判決理由は省略する。)

(裁判長判事 大塚今比古 判事 河原徳治 判事 中野次雄)

弁護人の控訴趣意

原審公判手続には重大な瑕疵があり破棄を免れないものと考える。今、原審第一回公判調書を検討すると、原審裁判所は右第一回公判を以て結審していることが明かであるが、右調書によつては、(1) 証拠調が終つた後に検察官、弁護人及び被告人が事件に付てそれぞれ意見を陳述したか否か、又(2) 被告人は弁護人が最終陳述をなしたか否か全く判明しないのである。刑事訴訟規則第四四条に依れば、右(1) 、(2) の事項は公判調書の必要的記載事項に属し、若しその記載なきに於ては、反証なき限り該手続は履践せられなかつたものと解するより他はない(団藤教授著、刑事訴訟法綱要二八年版五九八頁以下参照)。果して然らば、原審公判手続には刑訴法第二九三条に違反し検察官、弁護人及び被告人の事件に対する意見を聴くことなく、又刑訴規則第二一一条に違反して被告人又は弁護人の最終陳述を聴くことなく、結審して判決した重大な瑕疵があり、当然破棄さるべきものと考える。

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